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と。大王、心に念い口に説きて身に作さざれば、得るところの報、軽なり。大王、むかし口に殺せよと勅せず、ただ「足を削れ」と言えりき。大王、もし侍臣に勅せましかば、立ちどころに王の首を斬らまし。坐の時にすなわち斬るとも、なお罪を得じ。いわんや王勅せず、云何ぞ罪を得ん。王もし罪を得ば、諸仏世尊もまた罪を得たまうべし。何をもってのゆえに。汝が父、先王頻婆沙羅、常に諸仏においてもろもろの善根を種えたりき。このゆえに今日王位に居することを得たり。諸仏もしその供養を受けたまわざらましかば、すなわち王たらざらまし。もし王たらざらましかば、汝すなわち国のために害を生ずることを得ざらまし、と。もし汝父を殺して当に罪あるべくは、我等諸仏また罪ましますべし。もし諸仏世尊、罪を得たまうことなくは、汝独り云何ぞ罪を得んや。大王、頻婆沙羅むかし悪心ありて、毘富羅山にして遊行し、鹿を射猟して曠野に周遍しき、ことごとく得るところなし。ただ一の仙の五通具足せるを見る。見已りてすなわち瞋恚悪心を生じき。「我今遊猟す、得ざる所以は、正しくこの人の駆逐して去らしむるに坐る」と。すなわち左右に勅してこれを殺せしむ。その人、終わりに臨みて瞋って悪心を生ず。神通を退失して、しかして誓言を作さく、「我実に辜なし。汝、心口をもって横に戮害を加す。我来世において、また当にかくのごとく還りて心口をもってして汝を害すべし」と。時に王聞き已りて、すなわち悔心を生じて死屍を供養しき。先王かくのごとく、なお軽く受くることを得て、地獄に堕ちず。いわんや王、しからずして当に地獄の果報を受くべけんや。先王自ら作りて還りて自らこれを受く。いかんぞ王をして殺罪を得しめん。王の言うところのごとし。父の王辜なくは、大王いかんぞ失なきに罪ありと言わば、すなわち罪報あらん。悪業なくは、すなわち罪報なけん。汝が父先王、もし辜罪なくは、い