巻次 - 625頁 表示設定 ブックマーク 表示設定 文字サイズ あ あ あ 書体 ゴシック 明朝 カラー あ あ あ テキスト情報 本文 画像情報 画像情報 本文 く亡せ候いぬ。ことりと申し候う女の童も、はや年寄りて候う。父は御けん人にて、右馬の丞と申すものの娘の候うも、それへ参らせんとて、ことりと申すにあずけて候えば、世に不当げに候いて、髪なども世にあさましげにて候う也。ただの童にて、いまいましげにて候うめり。袈裟が娘の若葉と申す女の童の、今年は二十一になり候うが、妊みて、この三月やらんに、子生むべく候えども、男子ならば、父ぞ取り候わんずらん。先にも五つになる男子生みて候いしかども、父相伝にて、父が取りて候う。これもいかが候わんずらん。若葉が母は頭になにやらんゆゆしげなる腫もののいでき候いて、はや十余年になり候うなるが、いたずらものにて、時日を待つように候うと申し候う。それに上りて候いしおり、弟法師とて童にて候いしが、それへ参らすべきと申し候えども、妻子の候えば、よも、参らんとは申し候わじと、おぼえ候う。尼が臨終し候いなん後には、栗沢に申しおき候わんずれば、参れと仰せ候うべし。又、栗沢は、なに事やらん、のつみと申す山寺に不断念仏はじめ候わんずるに、なにごとやらん、せんし申すことの候うべきとかや申すげに候う。五条殿の御ためにと申し候うめり。なにごとも申したき事多く候えども、あか月、便の候うよし申し候えば、夜書き候えば、よに暗く候いて、よも御覧じ得候わじとて、止め候いぬ。又、針すこし給び候え。この便にても候え。御文の中に入れて給ぶべく候う。なおなお、公達の御事こまかに仰せ給び候え。うけ給わり候いてだになぐさみ候うべく候う。よろず尽くしがたく候いて、止め候いぬ。又、宰相殿いまだ姫君にておはしまし候うやらん。あまりに暗く候いて、いかように書き候うやらん、よも判じ得候わじ。三月十二日亥の時 紙面画像を印刷 前のページ p625 次のページ 第二版p764・765へ このページの先頭に戻る