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慈鎮和尚(慈円)を以て師範として、顕密両宗の教法を習学す。蘿洞の霞の中には三諦一諦の妙理を窺い、草庵の月の前には瑜伽瑜祇の観念を凝らす。鎮なえに明師に逢うて大小の奥蔵を伝え、広く諸宗を試みて甚深の義理を究む。而れども、色塵・声塵・猿猴の情、尚忙わしく、愛論・見論・痴膠の憶い、弥いよ堅し。断惑証理、愚鈍の身、成じ難く、速成覚位、末代の機、覃び叵し。仍りて、出離を仏陀に誂え、知識を神道に祈る。而る際、宿因多幸にして、本朝念仏の元祖黒谷聖人(法然)に謁し奉りて、出離の要道を問答す。授くるに浄土の一宗を以てし、示すに念仏の一行を以てす。自爾以降、聖道難行の門を閣きて浄土易行の道に帰し、忽ちに自力の心を改めて、偏に他力の願に乗ず。自行化他、道綽の遺誡を守り、専修専念、善導の古風に任す。見聞の道俗、随喜を致し、遠近の緇素、皆発心す。茲に祖師、西土の教文を弘めんが為に、遙かに東関の斗藪を跂てたまう。暫く常州筑波山の北の辺に逗留し、貴賤上下に対して末世相応の要法を示す。初めに疑謗を成す輩、瓦礫荊棘の如くなりしかども、遂に改悔せしむる族、稲麻竹葦に同じ。皆邪見を翻して、悉く正信を受け、共に偏執を止めて、還りて弟子と為る。凡そ訓を受くる徒衆、当国に余り、縁を結ぶ親疎、諸邦に満てり。謗法闡提の輩なりと雖も、彼の教化を聞く者、覚悟、花鮮やかに、愚痴放逸の類なりと雖も、其の諷諫を得る者、惑障、雲霽る。喩えば、木石の、縁を待ちて火を生じ、瓦礫の、𨥉を磨りて珠を為すが如し。甚深の行願、不可思議なる者か。方に今、念仏修行の要義、区まちなりと雖も、他力真宗の興行は