聖教・巻次一覧

嘆徳文

　夫れ、親鸞聖人は、浄教西方の先達、真宗末代の明師なり。博覧内外に渉り、修練顕密を兼ぬ。初めには俗典を習いて切瑳す。此れは是れ、伯父業吏部の学窓に在りて、聚蛍映雪の苦節を抽いずる所なり。後には円宗に携わりて研精す。此れは是れ、貫首鎮和尚（慈円）の禅房に陪りて、大才諸徳の講敷を聞く所なり。之に依りて、十乗三諦の月、観念の秋を送り、百界千如の花、薫修歳を累ぬ。爰に倩つら出要を窺いて、是の思惟を作さく、「定水を凝らすと雖も識浪頻りに動き、心月を観ずと雖も妄雲猶覆う。而るに一息追がざれば千載に長く往く、何ぞ浮生の交衆を貪りて、徒に仮名の修学に疲れん。須く勢利を抛てて直ちに出離を悕うべし」と。然れども、機教相応、凡慮明らめ難く、迺ち近くは根本中堂の本尊に対し、遠くは枝末諸方の霊崛に詣でて、解脱の径路を祈り、真実の知識を求む。特に歩を六角の精舎に運びて、百日の懇念を底す処に、親り告を五更の孤枕に得て、数行の感涙に咽ぶ間、幸いに黒谷聖人（法然）吉水の禅室に臻りて、始めて弥陀覚王浄土の秘扃に入りたまいしより爾降、三経の冲微、五祖の奥〓【saku_a】、一流の宗旨相伝誤つこと無く、二門の教相稟承、由有り。是を以ちて仰ぐ所は「即得往生　住不退転」（大経）の誠説、宛も平生業成の安心に住し、憑む所は「歓喜踊躍　乃至一念」（同）の流通、此れ乃ち無