巻次
-
902頁
表示設定
ブックマーク
表示設定
文字サイズ
書体
  • ゴシック
  • 明朝
カラー
テキスト情報
本文
画像情報
画像情報
本文

上大利の勝徳なり。仍って自修の去行を以て、兼ねて化他の要術とす。時に尊卑多く礼敬の頭を傾け、緇素挙りて崇重の志を斉しくす。
 就中に一代蔵を披いて経・律・論・釈の簡要を擢いでて、六巻の鈔を記して『教行信証之文類』と号す。彼の書に攄ぶる所、義理甚深なり。謂わゆる、凡夫有漏の諸善、願力成就の報土に入らざることを決し、如来利他の真心、安養勝妙の楽邦に生ぜしむることを呈し、殊に仏智信疑の得失を明かし、浄土報化の往生を感ずることを判ず。兼ねては復た択瑛法師の釈義に就いて、横竪二出の名を摸すと雖も、宗家大師(善導)の祖意を探りて、巧みに横竪二超の差を立つ。彼此助成して権実の教旨を標し、漸頓分別して長短の修行を弁ず。他人、未だ之を談ぜず、我が師独り之を存す。又『愚禿鈔』と題する選有り、同じく自解の義を述ぶる記たり。彼の文に云わく、「賢者の信を聞きて、愚禿が心を顕す。賢者の信は、内は賢にして外は愚なり。愚禿が信は、内は愚にして外は賢なり」と云々 此の釈、卑謙の言辞を仮りて、其の理、翻対の意趣を存す。内に宏智の徳を備うと雖も、名を碩才道人の聞きに衒わんことを痛み、外に只至愚の相を現じて、身を田父野叟の類に侔しくせんと欲す。是れ則ち竊かに末世凡夫の行状を示し、専ら下根往生の実機を表する者をや。加之ならず、或いは二教相望して、四十二対の異を明かし、或いは二機比校して、一十八対の別を顕す。大底、両典の巨細、具に述ぶべからず。
 抑も、空聖人(法然)、当教中興の篇に由りて事に坐せし刻み、鸞聖人、法匠上足の内とし