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 一人候う。又、弟法師と申し候いし童をば、とう四郎と申し候うぞ。それへ参れと申し候う。然御心得あるべく候う。袈裟が娘は十七になり候う也。さて、ことりと申す女は、子も一人も候わぬ時に、七になり候う女童を養わせ候う也。それは親につきて、それへ参るべく候う也。よろず尽くしがたくて、かたくて、止め候いぬ。あなかしこ、あなかしこ。
(八) 便をよろこびて、申し候う。度々、便には申し候えども、参りてや候うらん。今年は八十三になり候うが、昨年今年は死年と申し候えば、よろず常に申しうけたまわりたく候えども、確かなる便も候わず。さて、生きて候う時と思い候いて、五重に候う塔の、七尺に候う石の塔をあつらえて候えば、このほどは仕出だすべきよし申し候えば、今は所ども離れ候いて、下人ども皆逃げ失せ候いぬ。よろずたよりなく候えども、生きて候う時、建ててもみばやと思い候いて、このほど仕出だして候うなれば、これへ持つほどになりて候うと聞き候えば、いかにしても生きて候う時、建ててみばやと思い候えども、いかようにか候わんずらん。そのうちにもいかにもなり候わば子供も建て候えかしと思いて候う。なにごとも、生きて候いし時は、常に申しうけたまわりたくこそおぼえ候えども、はるばると雲の外なるようにて候う事、まめやかに親子の契もなきようにてこそおぼえ候え。殊には末子にておわしまし候えば、いとおしきことに思いまいらせて候いしかども、見まいらするまでこそ候わざらめ。常に申しうけたまわる事だにも候わぬ事、よに心くるしくおぼえ候う。

五月十三日

これは確かなる便にて候う。時に、こまかにこまかに申したく候えども、ただ今とて、この便いそぎ候