巻次 - 660頁 表示設定 ブックマーク 表示設定 文字サイズ あ あ あ 書体 ゴシック 明朝 カラー あ あ あ テキスト情報 本文 画像情報 画像情報 本文 して、修行者一人、求法のためとて御房をたずね申して侍りつるを、路次よりあいともないてまいりてそうろう。めさるべきをや」と云々 空聖人「こなたへ招請あるべし」とおおせあり。よりて鸞上人、かの修行者を御引導ありて、御前へめさる。そのとき空聖人、かの修行者をにらみましますに、修行者また聖人をにらみかえしたてまつる。かくてややひさしくたがいに言説なし。しばらくありて空聖人おおせられてのたまわく、「御坊はいずこのひとぞ、またなにの用ありてきたれるぞや」と。修行者申していわく、「われはこれ鎮西のものなり。求法のために花洛にのぼる。よって推参つかまつるものなり」と。そのとき聖人「求法とはいずれの法をもとむるぞや」と。修行者申していわく、「念仏の法をもとむ」と。聖人のたまわく「念仏は唐土の念仏か、日本の念仏か」と。修行者しばらく停滞す。しかれども、きと案じて、「唐土の念仏をもとむるなり」と云々 聖人のたまわく、「さては善導和尚の御弟子にこそあるなれ」と。そのとき修行者ふところよりつま硯をとりいだして、二字をかきてささぐ。鎮西の聖光坊これなり。この聖光ひじり、鎮西にしておもえらく、「みやこに世もて智恵第一と称する聖人おわすなり。なにごとかは侍るべき。われすみやかに上洛して、かの聖人と問答すべし。そのとき、もし智恵すぐれてわれにかさまば、われまさに弟子となるべし。また問答にかたば、かれを弟子とすべし」と。しかるに、この慢心を空聖人、権者として御覧ぜられければ、いまのごとくに御問答ありけるにや。かのひじりわが弟子とすべき事、橋たてても、およびがたかりけり、と。慢幢たちまちにくだけければ、師資の礼をなして、たちどころに二字をささげけり。両三年ののち、あるとき、かご負かきおいて、聖光坊、聖人の御前へまいりて、「本国恋慕のこころざしあるによりて、鎮西下向つかまつるべし。 紙面画像を印刷 前のページ p660 次のページ 第二版p805・806へ このページの先頭に戻る