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正しく到り回らんと欲すれば、群賊・悪獣、漸漸に来たり逼む。正しく南北に避り走らんと欲すれば、悪獣・毒虫、競い来たりて我に向かう。正しく西に向かいて道を尋ねて去かんと欲すれば、復た恐らくは、此の水火の二河に堕せんことを。」時に当たりて惶怖すること、復た言うべからず。即ち自ら思念すらく、「我、今回らば亦死せん、住まらば亦死せん、去かば亦死せん。一種として死を勉れざれば、我、寧く此の道を尋ねて、前に向かいて去かん。既に此の道有り。必ず度すべし」と。此の念を作す時、東の岸に忽ちに人の勧むる声を聞く。「仁者、但決定して此の道を尋ねて行け。必ず死の難無けん。若し住まらば即ち死せん」と。又、西の岸の上に人有りて喚ぼうて言わく、「汝、一心に正念にして直ちに来たれ。我、能く汝を護らん。衆て水火の難に堕することを畏れざれ」と。此の人、既に此に遣わし彼に喚ばうを聞きて、即ち自ら正しく身心に当たりて、決定して道を尋ねて直ちに進みて、疑怯退心を生ぜずして、或いは行くこと一分二分するに、東の岸の群賊等、喚ぼうて言わく、「仁者、回り来たれ。此の道、嶮悪なり。過ぐることを得じ。必ず死せんこと疑わず。我等衆て、悪心あって相向かうこと無し」と。此の人、喚ぶ声を聞くと雖も、亦回顧みず。一心に直ちに進みて、道を念じて行けば、須臾に即ち西の岸に到りて、永く諸難を離る。善友、相見えて慶楽すること已むこと無からんが如し。此れは是れ喩なり。
 次に喩〔「喩」の字 おしえなり。〕を合せば、「東岸」と言うは、即ち此の娑婆の火宅に喩うるなり。「西岸」と言うは、即ち極楽宝国に喩うるなり。「群賊・悪獣、詐り親しむ」と言うは、即ち衆生