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305頁
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亦過去の業因縁に因るが故に、復た我が所に於いて不善の心を生じて我を害せんと欲す。即ち五通を修して、久しからずして善見太子と共に親原たることを獲得せり。太子の為の故に種種の神通の事を現作す。門に非ざるより出でて、門よりして入りて、門よりして出で、門に非ざるよりして入る。或る時は、象・馬・牛・羊・男子の身を示現す。善見太子、見已りて、即ち愛心・喜心・敬信の心を生ず。是れを本とするが故に、厳しく種種の供養の具を説きて、之を供養す。又復白して言さく、「大師聖人。我今、曼陀羅華を見んと欲う」と。時に提婆達多、即便ち法として三十三天に至りて、彼の天人に従いて之を求索するに、其の福尽きつるが故に、都て与うる者無し。既に華を得ず。是の思惟を作さく、「曼陀羅樹、我・我所無し。若し自ら取らん、当に何の罪か有るべき。」即ち前んで取らんと欲するに、便ち神通を失えり。還りて己身を見れば、王舎城に在り。心に慙愧を生ずるに、復た見ること能わず。
 善見太子、復た是の念を作さく、「我今、当に如来の所に往至して大衆を求索すべしと。仏、若し聴さば、我、当に意に随いて、教えて便ち舎利弗等に詔勅すべし」と。爾の時に、提婆達多、便ち我が所に来たりて、是くの如きの言を作さく、「唯願わくは如来、此の大衆を以て我に付嘱せよ。我、当に種種に法を説きて教化して、其れをして調伏せしむべし」と。我、痴人に言わく、