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「舎利弗等、大智を聴聞して世に信伏する所なり。我、猶大衆を以て付嘱せじ。況んや汝痴人、唾を食らう者をや」と。時に提婆達多、復た我が所に於いて、倍ます悪心を生じて是くの如きの言を作さく、「瞿曇。汝、今復た大衆を調伏すと雖も、勢い亦久しからじ。当に見に磨滅すべし」と。是の語を作し已るに、大地、即時に六反震動す。提婆達多、尋ちの時に地に躃れて、其の身の辺より大暴風を出だして、諸の塵土を吹きて之を汚坌す。提婆達多、悪相を見已りて、復た是の言を作さく、「若し我が此の身、現世に必ず阿鼻地獄に入らば、我が悪、当に是くの如きの大悪を報うべし」と。
 時に提婆達多、尋ち起ちて善見太子の所に往至す。善見、見已りて即ち聖人に問わく、「何が故ぞ顔容憔悴して、憂の色有るや」と。提婆達多言わく、「我、常に是くの如し。汝、知らずや」と。善見、答えて言わく、「其の意を領説す。何の因縁あってか爾る」と。提婆達の言わく、「我今、汝が与に極めて親愛を成す。外人、汝を罵りて、以て非理とす。我、是の事を聞くに、豈に憂えざることを得んや」と。善見太子、復た是の言を作さく、「国の人、云何ぞ我を罵辱する」と。提婆達の言わく、「国の人、汝を罵りて「未生怨」とす。」善見、復た言わく、「何故ぞ我を名づけて「未生怨」とする。誰か此の名を作る」と。提婆達の言わく、「汝、未だ生まれざりし時、一切相師、皆、是の言を作さく、「是の児、生まれ已りて、当に其の父を殺すべし」と。是の故に外人、皆悉く汝を号して「未生怨」とす。一切内の人、汝が心を護るが故に、謂いて「善見」とす。毘提夫