巻次
-
707頁
表示設定
ブックマーク
表示設定
文字サイズ
書体
  • ゴシック
  • 明朝
カラー
テキスト情報
本文
画像情報
画像情報
本文

 奥郡のひとびと、慈信坊にすかされて、信心みなうかれおうておわしましそうろうなること、かえすがえすあわれにかなしゅうおぼえそうろう。これもひとびとをすかしもうしたるようにきこえそうろうこと、かえすがえすあさましくおぼえそうろう。それも日ごろひとびとの信の、さだまらずそうらいけることの、あらわれてきこえそうろう。かえすがえす、不便にそうらいけり。慈信坊がもうすことによりて、ひとびとの日ごろの信の、たじろきおうておわしましそうろうも、詮ずるところは、ひとびとの信心の、まことならぬことの、あらわれてそうろう。よきことにてそうろう。それを、ひとびとは、これよりもうしたるようにおぼしめしおうてそうろうこそ、あさましくそうらえ。日ごろ、ようようの御ふみどもをかきもちておわしましおうてそうろう甲斐もなくおぼえそうろう。『唯信鈔』、ようようの御文どもは、いまは、詮なくなりてそうろうとおぼえそうろう。よくよくかきもたせたまいてそうろう法門は、みな詮なくなりてそうろうなり。慈信坊にみなしたがいて、めでたき御ふみどもはすてさせたまいおうてそうろうときこえそうろうこそ、詮なくあわれにおぼえそうらえ。よくよく、『唯信鈔』・『後世物語』なんどを御覧あるべくそうろう。年ごろ、信ありとおおせられおうてそうらいけるひとびとは、みなそらごとにてそうらいけりときこえそうろう。あさましくそうろう、あさましくそうろう。なにごともなにごとも、またまたもうしそうろうべし。

正月九日     親鸞

真浄の御坊