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も、おそろしきもうしごとども、かずかぎりなくそうろうなり。なかにも、この法文の様ききそうろうに、こころもおよばぬもうしごとにてそうろう。つやつや、親鸞が身には、ききもせず、ならわぬことにてそうろう。かえすがえすあさましゅう、こころうくそうろう。弥陀の本願をすてまいらせてそうろうことに、人々のつきて、親鸞をもそらごともうしたるものになしてそうろう。こころうく、うたてきことにそうろう。
 おおかたは、『唯信抄』・『自力他力の文』・『後世ものがたりのききがき』・『一念多念の証文』・『唯信鈔の文意』・『一念多念の文意』、これらを御覧じながら、慈信が法文によりて、おおくの念仏者達の、弥陀の本願をすてまいらせおうてそうろうらんこと、もうすばかりなくそうらえば、かようの御ふみども、これよりのちにはおおせらるべからずそうろう。また、『真宗のききがき』、性信房のかかせたまいたるは、すこしも、これにもうしてそうろう様にたがわずそうらえば、うれしゅうそうろう。『真宗のききがき』一帖は、これにとどめおきてそうろう。
 また、哀愍房とかやの、いまだみもせずそうろう。また、ふみ一度もまいらせたることもなし。くによりもふみたびたることもなし。親鸞がふみをえたると、もうしそうろうなるは、おそろしきことなり。この『唯信鈔』かきたる様、あさましゅうそうらえば、火にやきそうろうべし。かえすがえすこころうくそうろう。このふみを人々にもみせさせたまうべし。あなかしこ、あなかしこ。

五月二十九日     親鸞