巻次 - 763頁 表示設定 ブックマーク 表示設定 文字サイズ あ あ あ 書体 ゴシック 明朝 カラー あ あ あ テキスト情報 本文 画像情報 画像情報 本文 なり候う。寅の年のものにて候えば、八十七やらん、八やらんになり候えば、今は時日を待ちてこそ候えども、歳こそ恐ろしくなりて候えども、咳く事候わねば、唾などは□事候わず。腰・膝打たすると申す□ともたふしまでは候わず。ただ犬のようにてこそ候えども、今年になり候えば、あまりにもの忘れをし候いて、耄れたるようにこそ候え。さても、昨年よりは、よに恐ろしき事ども多く候う也。又、すりいのものの便に、綾の衣給びて候いし事、申すばかりなくおぼえ候う。今は時日を待ちて居て候えば、これをや最後にて候わんずらんとのみこそおぼえ候え。たふしまでもそれより給びて候いし綾の小袖をこそ、最後の時のと思いて持ちて候え。よにうれしくおぼえ候う。衣の表も、いまだ持ちて候う也。又、公達の事、よにゆかしく、うけ給わりたく候う也。上の公達の御事も、よにうけ給わりたくおぼえ候う。あわれ、この世にて、いま一度見まいらせ、又、見えまいらする事候うべき。わが身は極楽へただ今に参り候わんずれ。何事も暗からず見そなわしまいらすべく候えば、かまえて御念仏申させ給いて、極楽へ参り合わせ給うべし。なおなお、極楽へ参り合いまいらせ候わんずれば、何事も暗からずこそ候わんずれ。 又、この便は、これに近く候うみこの甥とかやと申すものの便に申し候う也。あまりに暗く候いて、こまかならず候う。又、かまえて確か□らん便には、綿すこし給び候え。おわりに候うえもん入道の便ぞ確かの便にて候うべき。それもこのところにかかることの候うべきやらんと聞き候えども、いまだ披露せぬ事にて候う也。 紙面画像を印刷 前のページ p763 次のページ 初版p623・624へ このページの先頭に戻る