聖教・巻次一覧

本願寺聖人伝絵　上末

　黒谷の先徳 源空 在世のむかし、矜哀の余り、ある時は恩許を蒙りて製作を見写し、或時は真筆を降して名字を書き賜わす。すなわち『顕浄土方便化身土文類の六』に云わく 親鸞聖人選述、「然るに、愚禿釈の鸞、建仁 辛の酉の 暦、雑行を棄てて本願に帰し、元久 乙の丑の 歳、恩恕を蒙りて『選択』を書く。同じき年初夏中旬第四日、『選択本願念仏集』の内題の字、幷びに「南無阿弥陀仏　往生之業　念仏為本」と、「釈の綽空」と、空の真筆を以て之を書かしめたまい、同じき日、空の真影、申し預かり図画し奉る。同じき二年閏七月下旬第九日、真影の銘は、真筆を以て、「南無阿弥陀仏」と「若我成仏十方衆生　称我名号下至十声　若不生者不取正覚　彼仏今現在成仏　当知本誓重願不虚　衆生称念必得往生」の真文とを書かしめたまいき。又、夢の告に依って「綽空」の字を改めて、同じき日、御筆を以て名の字を書かしめたまい訖んぬ。本師聖人、今年七旬三の御歳なり。『選択本願念仏集』は、禅定博陸 月輪殿兼実、法名円照 の教命に依って選集せしめたまう所なり。真宗の簡要、念仏の奥義、斯れに摂在せり。見る者、諭り易し。誠に是れ希有最勝の華文、無上甚深の宝典なり。年を渉り日を渉り、其の教誨を蒙るの人、千万なりと雖も、親と云い疎と云い、此の見写を獲るの徒、甚だ以て難し。爾るに、既に