巻次
-
807頁
表示設定
ブックマーク
表示設定
文字サイズ
書体
  • ゴシック
  • 明朝
カラー
テキスト情報
本文
画像情報
画像情報
本文

口伝をそむきたる諸行往生の自義を骨張して、自障障他する事、祖師の遺訓をわすれ、諸天の冥慮をはばからざるにやと、おぼゆ。かなしむべし、おそるべし。しかれば、かの聖光坊は、最初に鸞上人の御引導によりて、黒谷の門下にのぞめる人なり。末学、これをしるべし。
(10)一 十八の願につきたる御釈の事。
 「彼仏今現在成仏」(往生礼讃)等。この御釈に世流布の本には「在世」とあり。しかるに黒谷・本願寺両師(法然・親鸞)ともに、この「世」の字を略して、ひかれたり。わたくしにそのゆえを案ずるに、略せらるる条、もっともそのゆえあるか。まず『大乗同性経』にいわく、「浄土中成仏悉是報身 穢土中成仏悉是化身」文 この文を依憑として、大師(善導)、報身報土の義を成ぜらるるに、この「世」の字をおきては、すこぶる義理浅近なるべしと、おぼしめさるるか。そのゆえは、浄土中成仏の弥陀如来につきて、「いま世にましまして」と、この文を訓ぜば、いますこし義理いわれざるか。極楽世界とも釈せらるるうえは、「世」の字、いかでか報身報土の義にのくべきとおぼゆる篇もあれども、さればそれも、自宗におきて浅近のかたを釈せらるるときの一往の義なり。
 おおよそ諸宗におきて、おおくはこの字を浅近のときもちいつけたり。まず『倶舎論』の性相 世間品 に「安立器世間 風輪最居下」とら判ぜり。器世間を建立するとき、この字をもちいる条、分明なり。世親菩薩の所造、もっともゆえあるべきをや、勿論なり。しかるに、わが真宗に