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からざれば、なかなかおろかにつたなげなる煩悩成就の凡夫にて、ただありに、かざるところなきすがたにてはんべらんこそ、浄土真宗の本願の正機たるべけれと、まさしくおおせありき。
 されば、つねのひとは、妻子眷属の愛執ふかきをば、臨終のきわにはちかづけじ、みせじと、ひきさくるならいなり。それというは、着想にひかれて、悪道に堕せしめざらんがためなり。この条、自力聖道のつねのこころなり。他力真宗には、この義あるべからず。そのゆえは、いかに境界を絶離すというとも、たもつところの他力の仏法なくは、なにをもってか、生死を出離せん。たとい妄愛の迷心深重なりというとも、もとよりかかる機をむねと摂持せんといでたちて、これがためにもうけられたる本願なるによりて、至極大罪の五逆謗法等の無間の業因を、おもしとしましまさざれば、まして愛別離苦にたえざる悲嘆にさえらるべからず。浄土往生の信心成就したらんにつけても、このたびが輪回生死のはてなれば、なげきもかなしみも、もっともふかかるべきについて、あとまくらにならびいて、悲歎嗚咽し、ひだりみぎに群集して、恋慕涕泣すとも、さらにそれによるべからず。さなからんこそ、凡夫げもなくて、殆ど他力往生の機には不相応なるかやともきらわれつべけれ。されば、みたからん境界をも、はばかるべからず、なげきかなしまんをも、いさむべからずと云々
(18)一 別離等の苦におうて、悲歎せんやからをば、仏法のくすりをすすめて、そのおもいを教誘すべき事。